大阪地方裁判所堺支部 昭和60年(ワ)28号 判決 1986年6月30日
原告 甲野太郎
右訴訟代理人弁護士 酒井圭次
被告 河合敬治
<ほか一名>
被告両名訴訟代理人弁護士 南輝雄
同 河上泰廣
同 御厩高志
主文
一1 被告らは各自原告に対し、金四七五万九八五一円及びこれに対する昭和六〇年一月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用はこれを三分し、その二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
三 この判決は一項の1に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
(一) 発生日時 昭和五六年一二月一五日午後〇時二〇分頃
(二) 発生場所 堺市北庄町二丁二番八号先路上(府道大阪和泉泉南線、以下「府道」という。)
(三) 加害車両 被告高田慎一郎運転の普通貨物自動車(泉四四と八四―六六)
2 本件事故の態様
別紙図面のとおり、加害車両が右府道に左折進入しようとし、原告は自転車で右府道の車側歩道を南進していた。被告高田は左折進入に際し、一旦停止も左方の注視もせず、いきなりとび出してきたので、原告自転車前部と加害車両左前部が接触し、原告は自転車ごと地面にたたきつけられた。
3 原告の受傷と入通院治療
(一) 左顔面鼻部割創、脳振とう。左眉部、鼻下、頤部擦過傷
(二) 入院治療八日間、通院治療六六日間
4 被告らの帰責事由
(一) 被告高田
不法行為責任
(二) 被告河合敬治
運行供用者責任、使用者責任
(三) 原告には全く過失がない。
5 本件事故による損害
(一) 入通院治療費 四一万六六四〇円
(二) 入院付添費 二万四〇〇〇円、一日につき三〇〇〇円で八日間付添を要した。
(三) 入院諸雑費 八〇〇〇円、一日一〇〇〇円の費用を要し、八日間入院した。
(四) 妻休業損害 三万五一〇〇円、本件事故により妻は九日間休業し、一日当り三九〇〇円で九日間。
(五) 通院交通費 五〇〇〇円
(六) 休業損害 五四万一三四八円、年収五二〇万円(一日当り一万四二四六円)であるところ、三八日間本件事故により休業した。
(七) 入通院慰謝料 六〇万円、入院八日、通院二か月の重傷を本件事故により被ったことによる原告の精神的損害は六〇万円で慰謝するのが相当である。
(八) 後遺障害による逸失利益
一三四一万四八八円
年間収入が五二〇万円で本件事故により一四パーセントの労働能力を喪失し、生涯完治の見込がない。
520万円×14/100×18.421
(九) 後遺障害による慰謝料 一七〇万円、原告は本件事故により右頬に切り傷、左頬にあざが残り、永久に消えないとのことである。原告はこのためやくざっぽい印象を他に与え、甲野重工株式会社の代表権のある取締役として営業上の損失も多く、また個人的にもひけめを感じるなど、原告の精神的損害は大きく、これを慰謝するには一七〇万円が相当である。
(一〇) 弁護士費用 一四〇万円、本件事故による損害として弁護士費用一四〇万円を要した。
合計 一八一四万五七六円
6 損益相殺
前項の治療費の支払を受けている。
7 よって、原告は被告らに対し、右損害額のうち一〇〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和六〇年一月三〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1項の事実は認める。
2 同2項の事実のうち、本件事故が被告高田が左折しようとした際に発生したことは認めるが、その余は争う。
3 同3項の事実は認める。
4 同4項の(一)、(二)は争わないが、(三)は争う。
5 同5項のうち、(一)及び(三)は認め、その余は不知又は争う。
三 抗弁
被告高田は一時停止線のところで、ほとんど停止に近いほど速度を落としたうえで、注意しながら緩い速度で左折進行し、原告の自転車を発見するや直ちに急制動をかけ、その場に停車した。原告は右方の見透しの悪い本件事故現場で、前方の安全確認を怠り、一時停止又は徐行することなく相当の速度でとび出して来て加害車両の左側ドア部分に衝突した。この態様からすると、本件事故の発生については、原告にも相当の過失があり、過失相殺がなされるべきである。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁事実は否認する。
2 過失相殺の主張は争う。本件事故は被告高田のみの過失に起因するものである。
第三証拠関係《省略》
理由
一 請求の原因1項の事実、同3項の事実及び同4項の(一)、(二)は当事者間に争いがない。
二 本件事故の態様(同2項の事実)について検討する。
1 《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められ、他にこれを左右するに足る証拠はない。
(一) 本件事故現場の交差点は、別紙図面のとおり、原告の進行方向右手、そして被告高田の進行(左折)方向左手に高さ二・三メートルのブロック塀があって、ともに見透しが悪いこと、府道の両側には歩道が設けられていること、同被告の進行方向で右交差点に入る地点の左手前に一時停止の標識が在ることからすると、同被告は右交差点を左折するに際しては、まず、一時停止し、左方を注視し、安全を確かめたうえで徐行左折すべき義務がある。ところが、同被告は左方の安全を確認することなく時速約五キロメートルで進入左折をした。一方、原告は進行方向右手を注視して徐行進行すべきであるのにこれを怠り、直進した。そこで、右交差点を左折進行してきた加害車両の左前部と原告の自転車が衝突し、原告は路上に転倒した。
(二) 右に認定した事実に反する原被告の各供述は措信できない。
三 本件事故による損害(同5項)について検討する。
1 治療費及び入院雑費については当事者間に争いがない。
2 原告が本件事故により八日間の入院をしたことは当事者間に争いがないところ、《証拠省略》によれば、原告の妻が八日間付添って原告の看護に当ったことが認められ、また、右付添費は一日三〇〇〇円が相当であるから、入院付添費として二万四〇〇〇円を要したことが認められる。
3 原告は妻の休業損害を請求するが、これは原告の損害と認められず、右請求は失当である。
4 右原告の供述によれば、通院交通費五〇〇〇円が認められる。
5 休業損害について検討するに、《証拠省略》によれば、原告は本件事故により三八日間休業し、その間給与を支給してもらえなかったことが認められ、また、原告の年間収入は五二〇万円であるから一日当り一万四二四六円となるので、休業損害は五四万一三四八円となる。
6 入通院慰謝料について検討するに、本件事故による原告の受傷及び入通院状況は当事者間に争いがないところ、これによる原告の精神的苦痛は六〇万円をもって慰謝するのが相当である。
7 後遺障害による逸失利益について検討するに、《証拠省略》によれば、原告は右頬に切り傷、左頬と鼻梁の上部にあざが残っていることが認められるが、右傷跡により原告の労働能力が原告主張の一四パーセント喪失しているとは認め難く、右傷跡による損害は原告の後遺障害による慰謝料として考慮するのが相当である。
8 後遺障害による慰謝料について検討するに、右7に述べたとおり、原告は本件事故により顔面に傷跡を残したことにより、原告の職務上及び私的生活の上で支障をきたし、これにより原告は精神的損害を被ったことが認められ、これを慰謝するには五〇〇万円が相当である。
9 弁護士費用について検討するに、本件訴訟の難易等諸般の事情を勘案すると、本件事故による損害として八〇万円の弁護士費用を認めるのが相当である。
10 以上合計七三九万四九八八円
四 被告らが原告の治療費として、四一万六六四〇円の支払をしていることは当事者間に争いがない。
五 抗弁について検討する。
前記二において認定した事故の態様からすると、本件事故は被告の過失のみではなく、原告の過失も相まって発生したものと認められるところ、その過失割合は被告七、原告三と認めるのが相当である。
六 そうすると、原告の本件事故による損害額は前記三で認定した七三九万四九八八円の一〇分の七の五一七万六四九一円(円以下切捨)となる。そして、これから前記四で認定した補填額を控除すると四七五万九八五一円となる。
七 以上の事実によれば、本訴請求は四七五万九八五一円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和六〇年一月三〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山浦征雄)
<以下省略>